シナリオ編<オマケ12>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<8>」 第116回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた

第116回 シナリオ編<オマケ12>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<8>」
執筆者:企画担当 ケイ茶


bro5

他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。


ケイ茶です。
前回の続きです。

「魔王&勇者モノ<8>」※今回は、どこかに入れる予定だった「ヒロインの過去編」です。


 

@私
「ひっ、く……ぅ、うぅ。ここ、どこ……?」

ずるり、ずるりと剣を引きずって歩く。

おもたいから、本当はどこかへ置いていきたかった。

でも、これは置いていっちゃいけないってことも、わかっていた。

これがないと戦えない。わたしは、戦わなくちゃいけない。

それだけはわかる。

でも、それ以外がわからない。

私は、誰なの?

ここは、どこなの?

どこへ行けばいいの?

@私
「だれか……っく、おしえてよぉ……」

@おばさん
「……あら。あなた……」

@私
「あ……」

いた。人。

その人は、驚いたように私を見た。

それから、ほほえんだ。

@おばさん
「その格好……。あなた、若いけど勇者なのね」

@私
「……ゆうしゃ?」

@おばさん
「そうよ。あなたは勇者。とても、すごい人なのよ」

@私
「ゆうしゃ……。すごい人……」

@おばさん
「その様子だと、何もわからないのね」

@私
「うん。わかんない。……こわい」

@おばさん
「大丈夫。なにも心配いらないわ」

@おばさん
「私の家にきて。いろんな事を教えてあげるから」

@勇者ヒロイン
「お母さん、見て見て!  Lv20になったから、こんな装備もできるようになったんだよ!」

@お母さん(元おばさん)
「あら、本当。これでもう、あんたも立派な大人だねぇ」

@勇者ヒロイン
「えへへっ。そうでしょ?」

@お母さん
「本当に、立派になって……。この家にきた時は、まだたったのLv5だったのにねぇ」

@勇者ヒロイン
「ここまで私が頑張れたのは、お母さんや、村の人がいたからだよ」

@勇者ヒロイン
「みんな、勇者として未熟な私にも親切にしてくれて……。だから、少しずつ強くなれた」

@勇者ヒロイン
「それで、ようやく冒険に出られるLvにまでなれた」

@お母さん
「そうよ。ここからが、貴方の本当の旅なんだから、しっかりしなくちゃ」

@勇者ヒロイン
「うん……。でも、大丈夫かな」

@勇者ヒロイン
「私、ちゃんと勇者として戦っていけるのかな……」

@お母さん
「なに弱気になってるの。貴方なら大丈夫よ」

@お母さん
「××だって一緒なんだから、心配する事ないわ」

@××
「おーい、勇者ヒロイン!  早くしないと、遅れるぞ!」

@お母さん
「ほら。噂をすれば、ね」

@お母さん
「これ以上、あの子を待たせるわけにはいかないでしょう。行ってらっしゃい、勇者ヒロイン」

@勇者ヒロイン
「……うん。行ってきます!」

@勇者ヒロイン
「みんなを苦しめる魔王なんて、私が絶対に倒してくるからね!」

@お母さん
「えぇ。楽しみにしてるわ」

@××
「……おい、ヒロイン。あんまりそわそわするなよ」

@勇者ヒロイン
「だって……なんか、すごくって……」

@××
「ほら、王様が来たぞ。しっかりしろ」

@勇者ヒロイン
「う、うん」

@王様
「お主が、勇者ヒロインか。魔物スモークスネークを倒してくれた事、感謝する」

@王様
「あの街は、長い間あの魔物に苦しめられていた」

@王様
「我が王国騎士団でも歯が立たなかった魔物を、こうも容易く討ち破るとは……。さすがは勇者だ」

@王様
「そのうえで、こんな事を頼むのは厚かましいとわかっているのだが……。この国の事情は、知っておるだろうか?」

@勇者ヒロイン
「はい。様々な魔物により食料が奪われ、人が殺され……日々、魔王の恐怖に怯えている、と聞き及んでおります」

@王様
「その通りじゃ。我らは、みな、魔王を怖がりながら生きるしかない……」

@王様
「勇者よ、頼む。魔王を、倒してくれ!」

@勇者ヒロイン
「……はい。この命にかえても、魔王は打ち滅ぼしてみせます」


@勇者ヒロイン
「きゃっ! ちょっと、何するのよ!」

@◯◯
「あぁ、ごめんごめん。噂に聞く勇者ってやつが、どんなもんか確かめたくってさ」

@◯◯
「でも、案外大したことないんだね」

@◯◯
「勇者なんて、所詮こんなものか」

@勇者ヒロイン
「な……っ!  勝手なこと言わないで!」

@勇者ヒロイン
「私のことは悪く言ってもいいけど、勇者全員を悪く言うのはやめて!」

@◯◯
「そう言われても、目の前の勇者様ってやつがそんなんじゃ、ねぇ……?」

@◯◯
「そうだ。明日、丁度闘技大会があるんだけどさぁ。本当に勇者がすごいなら、そこで証明してみせてくれよ」

@勇者ヒロイン
「わかった。逃げないでよね」

@◯◯
「あぁ。アンタこそ、逃げるんじゃないよ!」

@勇者ヒロイン
「……なにあれ。私、絶対負けない! 優勝してやる!」

@××
「あ、はは……。なーんか、面倒なことになっちまったなぁ……」

@勇者ヒロイン
「お、王様……?  どうしたんですか?」

@××
「ダメだ、ヒロイン。王様は……もう、死んでいるんだ!」

@××
「あれはただの、人形だ!」

@王様
「ク、カカカカカカ!」

@◯◯
「ハッ。この王様は、うまくつくられた偽物だったってわけかい」

@王様
「ククク……。偽物とは言ってくれるではないか、小娘が」

@王様
「我は、まごう事なき王だ。ただし……魔物の、王だがな」

@勇者ヒロイン
「っ!  あなたが、魔王……!」


@村人
「な、なんということじゃ!  あの守りが崩されてしまうとは……!」

@子供
「お母さん、怖いよぉ……」

@子供
「私たちみんな、死んじゃうの?  まものに、食べられちゃうの?」

@村人
「そんな事ないわ。大丈夫。きっと……」

@勇者ヒロイン
「えぇ、大丈夫です!」

@勇者ヒロイン
「落ち着いてください。この場は、私が……囮になります」

@村人
「あ、貴方はもしや……勇者様!」

@★★
「そうそう。勇者とそのご一行でーす!」

@××
「ここは俺たちに任せて、皆さんは逃げてください」

@◯◯
「逃げ道はこっちだよ!  全員、急いでついてきな!」

@村人
「お、おぉ……。ありがとうございます……!」

@××
「ついに、明日だな……」

@勇者ヒロイン
「うん。魔王城がここからでもよく見える。私たち……ようやく、ここまで来たんだね」

@××
「……なぁ、ヒロイン。お前は、この後どうするんだ?」

@勇者ヒロイン
「えっ?  この後って?」

@××
「だから、魔王を倒した後だよ。聞いた事なかったと思ってさ」

@勇者ヒロイン
「魔王を倒した後……」

@勇者ヒロイン
「そういえば、1回も考えた事ってなかったなぁ」

@××
「おいおい……」

@勇者ヒロイン
「仕方ないでしょ。だって、私は勇者なんだよ?」

@勇者ヒロイン
「勇者がどういうものか、××はちゃんとわかってる?」

@××
「えーっと、勇者は……潜在的な力が強く、魔王を倒す可能性を秘めた存在」

@勇者ヒロイン
「うんうん」

@××
「彼らは、戦うための装備をつけた状態で、どこからか現れる」

@××
「彼らは皆、魔王と戦うためだけに存在すると言っても過言ではない」

@××
「たとえ一時の休息を得ようと、彼らは常に魔王を倒す事を最大の目標とし、鍛錬にはげむ」

@××
「よって、その他の者は勇者に敬意をはらい、全力で手助けをするべし。……だったか」

@勇者ヒロイン
「そうそう」

@勇者ヒロイン
「ね?  勇者って、そういうものなんだよ」

@勇者ヒロイン
「その先の事なんて考えずに、ただ、魔王を倒したいと思う。この世界を救いたいって思う」

@勇者ヒロイン
「それが、勇者」

@××
「はー……。改めて言われると、すごいなぁ」

@勇者ヒロイン
「でしょ!  さぁ私に敬意をはらいなさい!」

@勇者ヒロイン
「……と、いうのは冗談」

@勇者ヒロイン
「私個人としてはね、ただ、褒めてもらいたいってだけなのかもしれない」

@××
「……褒めてもらいたい?」

@勇者ヒロイン
「うん。……ねぇ。私が、初めて魔物を倒した日のこと、覚えてる?」

@××
「あぁ。下水道に住み着いていたビッグマウスを倒したんだったよな」

@××
「すごいすごいってお祭り騒ぎだったんだから、忘れるわけないさ」

@勇者ヒロイン
「そう。あの時、みんなとっても喜んでくれた」

@勇者ヒロイン
「その後もそう。私が魔物を倒すたびに、誰かが褒めてくれた」

@勇者ヒロイン
「Lvアップすれば、お菓子をくれて。怪我をすれば、優しく手当てしてくれた」

@××
「ははっ。みんな、過保護だったよなぁ」

@勇者ヒロイン
「うん。そうしてみんな、私を大切にしてくれて、嬉しかった。今だって、その延長線上」

@勇者ヒロイン
「特別だと言われるのが、嬉しい」

@勇者ヒロイン
「私は特別な存在としてここにいる。だから、その力をしっかりと使いたい」

@勇者ヒロイン
「いろんな人に優しくしてもらったから、その人たちを守って、もっと優しくしてもらいたい」

@勇者ヒロイン
「そんなところかな」

@勇者ヒロイン
「運命とか、そういう存在だから、とかじゃなくて……私はただ、みんなの優しい顔が見たいから、戦うの」

@勇者ヒロイン
「だから、まずは魔王を倒してみんなを安心させてあげたい。今は、それしか考えられないよ」

@魔王
「ふはははは!  よく来たな、勇者よ」

@勇者ヒロイン
「魔王……っ。これまでは、何回も逃げられたけど……もう逃がさない!」

@勇者ヒロイン
「ここが、貴方の墓場なんだから!」

@××
「よしっ、やったか!?」

@魔王
「ク……」

@魔王
「クカカ……。それはどうかな?」

@魔王
「勇者よ、我が真の姿を見るがいい……!」

@勇者ヒロイン
「そ、そんな……!」

@◯◯
「なんだあれ、化け物じゃないか……」

@★★
「魔王なんて、最初から化け物だろ!」

@××
「くっ……。本当に、こんなやつに勝てるのか……?」

@勇者ヒロイン
「勝てる!」

@勇者ヒロイン
「ううん。勝つの。それしかない」

@勇者ヒロイン
「だって、私は勇者。勇者ヒロインなんだから!」

@魔王
「グ、グアアアァッ!」

@魔王
「そん、な……バカな……」

@魔王
「この、我が……。魔王が、たかが人間に、負ける、など……」

@魔王
「あり、えぬ……、グッ」

@××
「あ……」

@★★
「っはは……!」

@◯◯
「やったな……。やったんだ!」

@勇者ヒロイン
「や、った?」

@××
「そうだ、ヒロイン!  やったんだよ!」

@××
「俺たちは、ついに魔王を倒したんだ!」

@勇者ヒロイン
「倒した……。魔王を……」

@勇者ヒロイン
「魔王を倒した……!」

@××
「あぁ!」

@勇者ヒロイン
「じゃあ、これで……これでみんな、笑顔に」

@誰か
「××××!」

え……っ?

@誰か
「気が付いたのね、××××!」

なに?  なんなの、これ?

なに、この人。何を言っているの?

どうして私を、抱きしめているの?

それになんだか、周りが騒がしい。いろんな人が動いている。

@誰か
「どうしたの? どこか、まだ痛いの?  辛いの?」

なに、これ。

@私
「いいえ、痛みなどはありません」

なにこれ。

@私
「ただ、あの……あなたは一体どなたですか?」

なにこれ。

@誰か
「え……っ?」

なに? どうして、そんなに驚いているの?

@私
「それに、ここはどこですか?」

わからない。

@私
「みんなは、どこに行ったんですか?」

どういうこと?

@私
「私、ちゃんと魔王を倒せたんですよね?」

……なにが起きたの?

@誰か
「魔王?  何を言っているの、××××」

@私
「魔王が……! 魔王がいなくなって、世界は平和になったんですよね!?」

@誰か
「きゃっ!  ××××、落ち着いて。そんなに動いちゃだめよ」

@私
「でも! だって……!」

あ……あれ?  私の手、小さくて……弱い。

……どうして?  こんな手じゃあ、剣なんてもてない。

@私
「戦えない。戦えないよ……っ!」

@誰か
「まだ目覚めたばかりだから、混乱しているのね」

@誰か
「落ち着いて。……お母さんのこと、わかる?」

@私
「おかあ、さん?」

@誰か
「そう。お母さん、ちゃんとここにいるからね」

@私
「お母さん……」

……。

…………。

……あ。

そうだ。この人は、私のお母さんだ。

@私
「お母さん、私は……?」

@お母さん
「あなたは交通事故に巻き込まれて、10日間眠っていたのよ」

@私
「交通事故……」

そっか。そういえば、そうだ。

落とし物をした人に気が付いて、慌てて道路を渡ろうとしたら、車が近付いてきて……。

だから私、こんなところにいるんだ。

@お母さん
「思い出した?」

@私
「……うん」

ここは病院。私の名前は××××。私は今、6歳。この人は私のお母さん。

そうだ。それはわかる。でも、なんだろう。落ち着かない。

@私
「ねぇ……。お母さん。ここは、魔物に襲われたりしないの?」

@お母さん
「魔物?  ……大丈夫よ。そんなもの、どこにもいないわ」

@私
「そんなはずないよ!  魔物は、どこにだっているんだよ!  たくさんいて、いつも人間を苦しめて……」

@お母さん
「大丈夫。大丈夫よ」

@お母さん
「××××は、眠っている間に怖い夢をみただけよ」

@私
「悪い夢……」

夢。

本当に、そうだった?

魔物がいないなんて、あり得るの?  おかしいんじゃないの?

この人はお母さんだけど、本当にお母さんだった?  私にはもっと別の……私を大切に育ててくれた人がいるんじゃないの?

私の体はもっと成長して、もっと強くて、しっかりしていたんじゃないの?

××××って、誰? 私には、もっと別の名前があったでしょ? ××××なんて、変な呪文にしか聞こえない。

私が普段見ていた景色は、本当にこんなものだった?  もっと、緑豊かなものじゃなかった?

@お母さん
「念のため、検査を受けないといけないの。……行きましょう、××××」

@私
「……うん」

この景色や、この人や、この××××という響きに、ほんの少しは馴染みがあると思う。懐かしさは感じる。

でも、現実感はない。

全部、夢みたいだ。

ひどい、悪夢をみているみたいだ。

@お母さん
「検査の結果、特に心配する事はないそうよ。良かったね、××××」

@私
「……うん」

私はぼんやりと、お母さんがリンゴの皮を剥く様を眺める。

検査のために、いろいろな機械や器具をみた。

私はそれらの事をなんとなく知っていた。お母さんが持つリンゴの味も、食べる前からなんとなくわかっている。

でも、それらのものがーー見えるこの世界が、10日前まで私が普通に生活していた場所だという実感がわかない。

@私
「お母さん。誰か、お見舞いに来なかった?」

@お母さん
「あなたが眠っている間に、いろんな人が来てくれたわ」

@お母さん
「ほら、お友達の××××ちゃんとか、××××君とか。親戚の××××おじさんもきて、心配してた」

出された名前はやっぱり、聞き覚えはある、気がする。

でも、それがどんな人だったのかはわからない。

遠い昔にそんな人がいたかもしれない。そんな感覚がある。

@私
「……他には?」

@お母さん
「他には、えーっと……」

@私
「あの人は来なかった?  ねぇ。あの、私と一緒に村を出たーー」

@お母さん
「あいつ?  村を出た?」

……あれ?  あの人の名前、なんだっけ?

わからない。顔もおぼろげだ。いろいろな事を話した記憶はあるのに、その詳細を思い出す事ができない。

@お母さん
「なぁに?  また、夢の話なの?  よほど、面白い夢だったのねぇ」

@私
「違う……。違うよ」

@私
「夢じゃ、ない」

@私
「夢じゃないよ!」

そうだ。口にして、ハッキリとわかった。

あれは夢じゃない。夢だとは思えない。

でも、今私がいる現実でもない。

これは、どういう事なんだろう。わからない。

私は退院した。

前のように、学校にも通うようになった。

でも、日々の中で少しずつ、違和感が積み重なっていく。

私が勇者だと言うと、笑われた。

そんな弱そうな体で勇者なんて変だと言われたから、勇者は強さじゃないと教えた。

理解してはもらえなかった。

授業中、果物の名前を1つ言うように指示された。

当然のように私が答えた果物は、誰も知らないものだった。

嘘つきだと言われた。

校内を歩いていたら、魔物を見つけたから走り回って武器を探した。

剣がどこにもなくて、苛立った。

仕方がないから、調理室の包丁を装備して戦った。

その魔物を倒した頃に、先生が通りがかった。先生は悲鳴をあげた。

どうやら、それはみんなで飼育していた魔物だったらしい。

怒られた。不気味なものを見るかのような目で、みんなが私を見ていた。

なぜそんな目をするのか、わからない。

魔物を飼おうと思うみんなの方が、おかしいのに。

みんなは私を見て、怖いと言った。

魔物が飼育されている事を知った私は、万が一の時の事を考えて、防具を装備する事にした。

まともなものがなかったけれど、それでもなんとか鍋の蓋やヘルメットで武装していくと、みんなはまた変な目をした。

頭がおかしいと言われた。

なんでこんなに、変な事ばかり起きるんだろう。

……ああ。あの人たちに、会いたい。

名前や顔はよく覚えていないけれど、こんな私を受け入れてくれる人たちはたしかにいたはずだ。

優しい人たちだったはずだ。

その人たちに、また会いたい。彼らは今、どこにいるんだろう。

こんなところ、今すぐに出て行って探したい。

……あ。

そうだ。そうだよ。出て行きたいと思ったら、いけばいいんだ。

私には、その力があるんだから。

ほら。目を閉じて、両手を持ち上げて。好きな景色を思い描いて。

@私
「転移魔法・レッチェルライズ!」

高らかに叫んで目をあければ、そこはもう……。

……。

@私
「……移動、してない」

なんで?  おかしいよ!

私、しっかり体力もある。魔法なんて全然使ってなかったんだから、魔力だって消費してない。

だから、使えるはずなのに。

@私
「転移魔法・レッチェルライズ!」

@私
「……レッチェルライズ!」

@私
「レッチェル、ライズ……っ!」

@お父さん
「××××。何をしているんだい?」

@私
「お父さん……っ。大変なの。おかしいの。魔法が、使えないの」

@お父さん
「へぇ。魔法か。たしかに、使えたらいいよなぁ」

@私
「いいとか悪いとかじゃなくて、おかしいの!  私は、魔法が使えるはずなの!」

@お父さん
「そうかそうか。××××は魔法使いか」

@私
「違うの!  私は勇者!」

@お父さん
「おぉ、魔法も使える勇者か。そりゃ凄い」

……あれ?  そもそも、私に父親なんていたっけ?

……。

そうだよ。私は、おばさんと2人暮らしをしているんだ。

父親なんてものがいるはずない。

じゃあ、これは何?

……。あ、そうだ。たしか、前にもこんな事があった。

@私
「お前は、父親なんかじゃない」

@お父さん?
「……え?」

@私
「お前は、魔王なんでしょ。姿をあらわせ!」

@お父さん?
「……あー。勇者ごっこか。……ふははははー、俺は魔王だー」

ほら、やっぱり。魔王だった。

魔王は、倒さなきゃ。

今日は、お母さんに泣きながら怒られた。

どうしてだろう。

私は、ただ魔王を倒そうとしただけなのに。

手に持ったナイフを取り上げられてしまったから、私は魔王を倒す事ができなかった。

お母さんも、私をおかしいと言った。

魔王は、私を見て怯えていた。

やっぱり、頭がおかしいと言われた。

どうやら、魔王は魔王ではなかったらしい。

本当に、私のお父さんだったみたい。

そう言われると、そんな気もした。

あぁ、そうか。私にはちゃんとお父さんがいたんだと、納得した。

だから、ナイフを向けた事を謝っておいた。

お父さんは許してくれた。

でも、その顔にまだ怯えが混じっている事が私にはわかった。

知っている。あれは、人間が魔物を見た時にする表情だ。

相変わらず、いろんな人が私をおかしいと言う。

私自身も、その自覚が出てきた。

自分では当然の事のように行った行動が、数分後には理解不能な出来事になる。

やっぱり、私はおかしい。

どうせならと思って、みんなに、私がどうおかしいのか聞いてみた。

すると、1人が言った。

お前は現実とゲームの区別がついていない。お前が言っているのは全部、RPGの中の話だ、と。

@私
「これが、RPG……」

RPGというものを見てみたくてお父さんにねだると、すぐに手に入った。

教えてもらった通りに操作をして、ゲームというものを進めていく。

その度に、思った。

@私
「あ……」

……懐かしい。

@私
「あった……。あったんだ……!」

@私
「やっぱり、夢じゃなかったんだ……!」

この世界には魔王がいる。魔物がいる。勇者がいる。王様がいて、親切な村人がいる。

魔法を使うことができる。敵と戦う事が普通で、私の知っている常識が通じる。

本当だ。

私の知っている世界は、ここにあった。

私は、いろいろなRPGを集める事にした。

RPGには、私の知っているものがたくさんつまっている。

だからきっと、このうちのどれかには、私の知っているあの人たちがいるはずだ。

その人たちを、頑張って見つけ出すんだ。

そしてまた、話したい。一緒に、旅をしたい。

RPGをやっていて、勇者というものは、基本的に男なんだと知った。

きっと、私が勇者だと認めてもらえなかったのはそのせいだ。

だからこれからは、もっと男っぽくしよう。


ボクは、たくさんのゲームを集めた。

そしてたくさんのゲームをクリアーーある日、ふと気が付いた。

これは全部、作り物なんだ、って。

それがわかった途端に、みんながボクをおかしいといった理由が完全にわかった。

いつか言われた通りだ。ボクはこのゲームの世界を、現実と混同していた、頭のおかしな人間だったんだ。

会いたい会いたいなんて思っていた人たちは、本当はいつだって会えたんだ。

だって、彼らはボクの頭の中にいたんだから。

ただの空想だったんだ。

そんなものを、必死になって探していたなんて馬鹿みたいだ。

あの人たちなんて、現実には存在しなかった。

でも、ゲームの世界が楽しいのは事実だ。

ボクの夢がつまっている。

ボクが望んだ通りの事ができる。

何をやっても許される。

だからもう、好きにしよう。ゲームの世界を存分に楽しもう。

相変わらず、ゲームは楽しい。

でも、その分、現実がつまらない。

魔法もない。魔物もいない。面白みのない世界だ。

@ボク
「……勇者ヒロインは、いいなぁ」

ボクの分身。勇者ヒロインだけは、ゲームの世界にいる。

羨ましい。

ボクができないことをしている。ボクも、その世界に行きたいのに。

こんな夢のない世界には、いたくないのに。

ボクは今日も、死ねなかった。

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