シナリオ編<オマケ9>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<5>」 第113回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた

第113回 シナリオ編<オマケ9>「ボツシナリオ(5)魔王&勇者モノ<5>」
執筆者:企画担当 ケイ茶


bro5

他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。


ケイ茶です。
前回の続きです。

「魔王&勇者モノ<5>」


 

▲ヒロイン視点

@ヒロイン
「……もう、雰囲気作りに焦れたのかなぁ」

魔王が魔法屋に向かった。事になってから、たった1分。

今回は、あっという間に新しいコメントがきた。

@魔王主人公
『魔法屋に行ってきた。だが、魔法を修得する事はかなわなかった』

@勇者ヒロイン
『……なんだ? 状態異常の魔法がなかったのか?』

@魔王主人公
『否。なかったのは、金だ』

@魔王主人公
『我は、金を所持しておらぬ。よって、魔法を手にする資格がなかった』

@ヒロイン
「……なにそれ」

文無し魔王って。嫌だなぁ。

お金をじゃらじゃら持ち歩かれても違和感あるけど、お金がなくて店から追い返される魔王はもっと嫌だ。

知れば知るほど、この自称魔王がよくわからなくなってくる。

この人、魔王を一体なんだと思っているんだろう。

@勇者ヒロイン
『所持金がないからって、なんで素直に引き下がってるんだよ』

@勇者ヒロイン
『魔王だろ。しっかり奪ってこいよ』

@魔王主人公
『貴様、魔王をなんだと思っているのだ』

@魔王主人公
『我はものを奪った事などない。奪うのは命だけだ』

@勇者ヒロイン
『じゃあ店員の命を奪えば良かっただろ。そうすれば、魔法は戦利品として手に入る』

@魔王主人公
『……勇者は、常にそのような事をするのか?』

@勇者ヒロイン
『するわけないだろ!』

そんな勇者、さすがに嫌だ。勇者っぽさがない。

@魔王主人公
『ならば、我もそんな事はせぬ。街にいる時、我は勇者なのだ』

@魔王主人公
『無駄に騒ぎを起こすわけにはいかぬ』

@ヒロイン
「それはそうかもしれないけど……」

そこらへんこそもっと柔軟に、人間の記憶を改竄できるとか、全部無かったことにできるとか。

そんな都合のいい設定を使えばいいのに。

変なところで真面目すぎる。

@魔王主人公
『そのような事情から、我は金を手に入れなければならぬ』

@魔王主人公
『……だが、我は知らぬ』

@魔王主人公
『金とは、どうやって手に入れるものなのだ?』

@勇者ヒロイン
『そりゃ、魔物からだろ』

@勇者ヒロイン
『魔物を倒せば金もいっしょに手に入る』

@魔王主人公
『そういうものなのか。ならば……』

一旦、魔王のコメントが途切れた。

かと思うと、1分後にまたコメントが投稿される。

@魔王主人公
『……貴様、我が少し下手に出たからといって調子に乗っているようだな』

@魔王主人公
『魔物を集めて問うたが、金を所持している魔物などおらぬではないか』

@ヒロイン
「……あー、そういえばそうだった」

そうだそうだ。あまりの間抜けぶりにうっかり忘れかけていたけれど、この人がなりきっているのはあくまでも魔王なんだった。

だから、敵は魔物じゃなかった。

@勇者ヒロイン
『間違えた。敵は勇者だ。勇者から金を奪い取れ』

@魔王主人公
『なんだと……』

@勇者ヒロイン
『狙うのはどんな勇者でもいい。初期の勇者だろうが、いくらかの金は所持しているはずだ』

@勇者ヒロイン
『もし金を持っていなければ、アイテムを所持していないか見た方がいい。装備もしっかり剥ぎ取るんだ』

@勇者ヒロイン
『街に行ってそれを売れば、金になるだろ』

@魔王主人公
『……そうか。ならば、次に勇者が現れし時にやってみよう』

@ヒロイン
「ふぁ……」

あくびを噛み殺しながら、ゲームを閉じる。

あれから、また、自称魔王のコメントが途切れた。

最後のコメントが来てからは、大体2時間半ほどたっている。

@ヒロイン
「魔王、寝たかな……」

そろそろ、早起きの人は活動を始める時間だ。

という事は、逆に、ボク達の様な昼夜逆転人間は寝る時間。あっちが先に寝ていても、不思議じゃない。

そろそろ、僕も眠ろうか。

そう思って目をこすると、パソコン画面が変わった。

新着コメント、一件。

@ヒロイン
「……タイミングが良いのか悪いのか」

せっかく寝ようとしていたのに。とこぼしつつ、ボクの指はキーボードにのびる。

@魔王主人公
『勇者ヒロインよ。我は、複数の勇者を殺してきた』

@勇者ヒロイン
『そうか』

@魔王主人公
『貴様、感想はそれだけか』

@ヒロイン
「それだけ、って……。こっちは眠い中返事してるっていうのに……」

まったく。どんな感想がほしかったというのか。

呆れながら、キーボードを弾く。

@勇者ヒロイン
『結果はどうだ? 金は手に入ったのか?』

@魔王主人公
『無論だ』

@魔王主人公
『それぞれの勇者がもっている金は少なかったのでな。貯めるために、随分と時間がかかってしまった』

@勇者ヒロイン
『そうか』

@魔王主人公
『標的を眠りに誘う魔法だけではなく、対象を癒す魔法も手に入れたのだ』

@魔王主人公
『そのために、我は多くの勇者を殺した』

@勇者ヒロイン
『頑張ったんだな』

@魔王主人公
『貴様……』

@魔王主人公
『貴様は……なんだ。何を考えているのだ』

@勇者ヒロイン
『ん?  なんだ、突然』

@魔王主人公
『貴様は、勇者が殺されても何も思わぬのか』

@勇者ヒロイン
『え?  別にどうでもいいだろ、そんなの』

この人の脳内で勇者が殺されたとしても、ボクには何の関係もない話だ。

そんな事で騒ぐつもりはない。

それとも、この人だったらいちいち嘆くという事だろうか。

……。

あぁ、ありえるかも。

そういえば、この人、脳内魔物が死ぬ事さえも嫌がるような人だった。

ボクに対しては何度も「死ね」と言ったくせに。と考えると、やっぱり変な人だ。

@ヒロイン
「……そんな変な人だからこそ、つい構いたくなるのかなぁ」

苦笑しながら、僕はやっぱり、キーボードを叩く。

@勇者ヒロイン
『とにかく、魔法は手に入ったんだろ。だったら、伝説の武器をとりにいってこいよ』

とりあえず、その区切りがつくまでくらいは、寝ずに待っていてあげよう。

▲主人公視点

周囲の魔物をすべて眠らせ、地面に突き刺さっているそれへと近づく。

@主人公
「これが、伝説の剣か……」

我は、伝説の剣を持ち上げた。

ずっしりとした重みがあるが、不思議と手に馴染む。

@主人公
「悪くはないな……」

眩い光を放つ刃に感嘆の息を吐きながら、指をすべらせる。

――その瞬間。

@主人公
「……く」

暗黒の波動を感じて振り返ると、この階層の主であろう魔物がそびえ立っていた。

@魔物Lv300
「グルルル……」

我が眠らせてから、そう時間もたっていないというのに目覚め、動き始めるとは。

さすがは、我が魔界に住む魔物だ。

@主人公
「……常に寄り添いし闇たちよ。この者を深き眠りに誘え。ドルミール!」

@魔物Lv300
「グルル……」

@主人公
「なるほど。そう何度も寝てはくれぬか」

我が向けた魔力は、魔物の体にぶつかって雲散しただけだ。効果はない。

むしろ、中途半端に魔力を受けた魔物は、苛立ったようだ。目の鋭さが増している。

魔物の爪や尾が、断続的に我に襲いかかった。

@主人公
「く……」

降りかかるそれによるダメージは少ない。痛みはあるが、耐えられる程度のものだ。

だが、こうも攻撃を続けられては、転移魔法を唱える間はない。

避けて通ろうにも、この巨体ではそれもできぬ。

さて、どうするべきか。

思案し始めた時、不意に、握っていた剣の重みが増した。

@主人公
「……伝説の剣、か」

改めて目を向けると、剣のまわりには、視認できるほどに魔力が渦巻いている。

それが、我に力を与えている事も感じる。

魔力。攻撃力。防御力。素早さ。回避力。様々な力が増しているのだとわかる。

心地良い。これが、武器を装備するということか。

@主人公
「そうか……我は、強くなったのだったな」

@主人公
「この強さ……試してみたいものだ」

力が湧き上がる。我が声に呼応するかのように、剣の重みがまた、増した気がした。

……そうだ。何を迷う必要があるのだ。

剣が、殺せとささやいてくる。魔物を殺せと言っている。

そして、目の前にいるこの魔物は、本気で我を殺す気でいる。

今も尚攻撃の手を休めることなく、我に向かってくる。

我の邪魔をしているのだ。

ならば……。

@主人公
「我が、新たな力を受けよ」

剣を振り上げる。

柄を握りしめる手に、力がこもった。

後は、これを振り下ろし……。

……。

@主人公
「……否。ならぬ!」

首を振り、剣を静かにおろす。

たしかに、我は勇者と名乗った。

勇者のように情報を集め、敵を屠り、魔法を買った。

だが、我は魔王だ。勇者ではない。

勇者のように魔物を殺す事だけは、絶対にしてはならぬ。

魔物は皆、庇護の対象だ。それが我を殺そうとする魔物だろうと例外は無い。

それを、忘れてはならぬ。

このような剣に惑わされる魔王ではない。

@魔物Lv300
「グルル……」

そもそも、我にはこの魔物に攻撃をする権利もない。

我は勇者のことだけではなく、魔物の事も満足に知らぬ。

大抵の魔物は我に従うが、そうでない魔物も多数いる。その違いがわからぬ。

この魔物の目には、たしかな憎悪が宿っている。その原因は、我にあるのかもしれない。

ならば、知る努力が必要だ。

@主人公
「……聞け、魔物よ」

@主人公
「我は、邪魔だからなどという理由で貴様を殺しはせぬ」

@主人公
「傷付ける事もせぬ」

@主人公
「よって、怖がらなくともよい。安心して攻撃を続けよ」

@主人公
「貴様が飽きるまで、我はここで、そのすべてを受け止めよう」


@主人公
「帰ったぞ」

@魔物Lv5
「ぴ! ぴぎゃ! ぴぎゃ!」

@主人公
「ああ。出迎え、ご苦労」

@魔物Lv5
「ぴ! ぴ! ぴぎゃー!」

@主人公
「……なにを騒いでいる」

@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」

@主人公
「む? ……あぁ、この汚れか。案ずるな」

@主人公
「少し、元気の有り余った魔物と遊んでいてな」

@主人公
「その魔物が落ち着くまで付き合っていただけだ」

慌てる魔物を宥めながら、歩みをすすめる。

まさか、この汚れ程度でこうも騒ぐとは。予想外だ。

帰城する直前、癒しの魔法を何度か使用したのは正しい判断だったようだ。

@主人公
「もう、汚れのことはよい。それよりも、これを見よ」

@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」

@主人公
「どうだ。素晴らしいだろう?」

@魔物Lv5
「ぴぎゃー!」

@主人公
「これこそが、伝説の剣。我が武器だ」

@主人公
「様々な問題や手間はあったが、あれらの苦難を乗り越えて手に入れりだけの価値があるものだった」

魔物を見ると殺せと囁いてくるような感覚があるのは厄介だが、それさえ目を瞑れば最高の武器だと言えるだろう。

これで、目当てのものは手に入った。

あとは、魔力の増した結果がいかなるものか。

高鳴る鼓動を感じながら、我はそっと指を持ち上げる。

@主人公
「では、試すとするか」

@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」

@主人公
「ハエレティクス・ゲート!」

その瞬間。

指先から放たれた我が魔力が、宙に拡散しーー鏡が煌めいた。

▲ヒロインの部屋

@主人公
「これは……」

見た事のない景色だ。

これまで、様々な異界を目にしたが、このような場所は初めて見る。

@主人公
「不思議な場所だ……。我らの世界とは、まるで雰囲気が違うのだな」

@主人公
「だが、この石版には見覚えがある。やはりここは、件の勇者の世界となのだろう」

@魔物Lv5
「ぴぎゃ!」

@主人公
「ならば……」

@主人公
「これが、石版の勇者の姿か」

@主人公
「……ふむ。想像以上に貧弱だな」

@主人公
「肉付きも悪い。我が触れるまでもなく、死にそうではないか」

@魔物Lv5
「ぴぎゃぎゃぎゃ!」

@主人公
「……」

@主人公
「魔物よ。……我にはわからぬ」

@主人公
「この勇者は、なぜ苦しんでおらぬのだ」

@主人公
「なぜ、このように落ちついた顔をしているのだ」

@魔物Lv5
「ぴぎゃ?」

@主人公
「我は、他の魔王が死ぬ度に空虚感を覚えた。怒りを感じた」

@主人公
「しかしこの勇者は、他の勇者が死んでも何も気にせぬと言った」

@主人公
「我は、それを虚勢だと思った。石版上のやりとり故に、ごまかしているのだと考えていた」

@主人公
「だが、この顔は違う。本当に、他の勇者が死んだ事を気にもとめておらぬのだ」

@主人公
「……何故、それほど無関心でいられるのだ」

@魔物Lv5
「ぴぎゃー……」

@主人公
「……否。考えても無意味だな」

@主人公
「これはただ、我が殺すべき対象だ」

今回の一件で、勇者が本気で我を異界に呼び込もうとしている事がわかった。

ならばせいぜい、それに乗ってやろうではないか。

勇者が何を考えていようと、関係はない。

我はただ、目にしたすべての勇者を抹殺するだけだ。

ボクはまどろみの中、ふと画面に目を向けた。

次いで、瞬きを繰り返す。

@ヒロイン
「……え?」

@ヒロイン
「……なに、このコメント……」

@魔王主人公
『勇者ヒロインよ。伝説の剣を手に入れた事により、我が力は増した』

@魔王主人公
『貴様の推測通りに我が特殊能力も強まり、そちらの世界の光景が見えるようになった』

@魔王主人公
『貴様が女だということは意外だったが、だからといって手を緩める事はせぬ』

@魔王主人公
『望み通り、殺してやる。その日を楽しみにするがいい』

……これ、どういう事?

武器を手に入れた。それはいい。異界に近付いた。それもいい。どちらもただの設定だ。

でも。女って、バレた?

……どうして?

別に、ボクは騙すつもりでこんな口調だったり、ボクと言っているわけじゃない。

これは、ただの個性だ。好みだ。

でも、この口調のせいで性別がわかりにくくはなっているはずだ。

女かもしれないと感じても、断言はできない。そのギリギリのラインだと思っている。

だから普通は、性別が気になったら探りを入れるように聞いてくる。

けれど、この言葉は違う。ボクが女だと完全に理解している。

そんな事がわかるという事は。

@ヒロイン
「もしかして、本当に……?」

この人は、ボクを見ているのか?

殺すために?

この架空の魔王の魔力が上がればそれに連動して、本当に、近づいてくるつもりなのか?

@ヒロイン
「そして、最終的に……ボクを、殺す?」

考えを口に出した瞬間、それは現実味を帯びた。

背筋から疼きにも似た感覚が這い上がり、体を震わせる。

@ヒロイン
「……ごい」

@ヒロイン
「すっ、ごい……!」

期待していなかった。ただの暇潰しだと思った。

でも、違うかもしれない。この人は、ボクを殺してくれる人なのかもしれない。

このちょっとおかしな人に話を合わせていれば、ボクは死ぬ事ができるかもしれない。

ああ。なんだそれ。最高だ。

あまりの興奮に、飛び跳ねる。笑って、足をバタバタさせて、枕に顔をうずめる

このままずっと騒いでいたい。そんな気分だったけれど、

@ヒロイン
「……っ」

足音を耳にして、息をひそめる。

スリッパを履いたこの軽めの音は、母のものだろう。

近づいてきたかと思ったその音は、この部屋を逸れて別の方に向かった。

その事にほっと息をはき、布団にくるまる。

……今のうちに、寝てしまおう。

現実と、顔を合わせたくはないから。

殺してもらえる日を楽しみにして、今は、いい夢をみよう。

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