日曜定期更新(03/31/2019)「結婚主義国家 単独結婚 初稿」※ネタバレ注意

日曜日に書く事があっても無くても「とりあえず定期更新」するコーナー。 企画担当のどうでもいい事だったり、時として新作タイトルの事についてだったり、更新して、生存報告する事が第一目的です。

ケイ茶です。
Rが結婚主義国家の開発フォルダを探し回った結果、 「単独結婚」「恋人死亡」「儀式失敗」「変人縁談」 のストーリーの初稿が発掘されたため、公開します。
長いものも、短いものもあります。長いものは、それだけRが悩んで書いたという事になりますね!
さて、今回は「単独結婚」の初稿です。

※「結婚主義国家」のネタバレが含まれる場合があります。
そのため、本編をすべてプレイしたうえでの閲覧を推奨いたします。

「単独結婚」初稿です。※完結していません。

以前公開しましたが、こちらが初稿時のキャラクターイメージです。

 

 

ツタが這う白塗りの壁に背を預けながら、空を見上げる。

木々の葉がこすれる音しかしないここは、少し前に見つけたお気に入りの場所だ。

ここで1人過ごしていると、世界に自分しか存在しないような気がして心が落ち着く。

……というのが常の事だったのだが、今日に限ってはそんなさわやかな気分はどこにもない。

それもこれも先程の電話のせいだ、と。私は電源の落ちた携帯電話をにらみつけた。

ただの黒い画面となったそれは、私の顔をうっすらと写し出す。

そのせいで近所のおばさんから「父親に似てきた」と評された事を思い出し、なし崩し的に、電話口で聞いた声も脳裏に浮かび上がった。

『いい加減、結婚相手を探しなさい。人間は1人では生きていけないんだ』

そう言った父は、まるでわかっていないと私は思う。

そこは、「人間は」ではなく、「この国では」というべきだ。ついでに、「とてもくそったれな事に」とも付け足す必要がある。

他者との生活なんて疲弊するだけだ。

私は1人で生きていたい。無言で目覚め、自由に食事をたべて外出し、自分だけの家に帰宅し、1人静かに眠りたい。

しかし、この国ではそれが許されない。

18歳までに結婚できなかった者は処刑する。などという、とち狂った制度があるからだ。

これには、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。

昔は『離婚』という制度があったらしいが、それも廃止されて久しい昨今では、1度結婚した者は一生同じ屋根の下で生活しなければならなくなってしまった。

唯一婚姻が解消されるのは配偶者の死が確定した時のみだなんて、本当に馬鹿げている。

そう溜め息を吐くと、ふと、1つの考えが頭をもたげた。

【雅文】
「……ああ、そうか。いっそ、結婚後に妻を殺せばいいのか」

そうすれば、その後の人生はずっと1人で過ごす事ができる。

その様を想像して――私は首を横に振った。

しょせん、こんなものはただの願望。

独身生活を謳歌するなんてこの国では叶いもしない夢なのだ、と。自分らしくもない空想に苦笑したその時、

【???】
「うわっ。怖っ! けーさつ呼ばなきゃ!」

頭上から声がした。

飛び跳ねた心臓と共に体を起こせば、少し高い位置にある小窓が目に入る。

そこからひょっこりと顔を出し、携帯電話を耳に当てている女性の姿も同様に、瞳に映った。

鬼気迫る彼女の表情に、私の心臓は尚も激しく脈打つ。

警察という単語が聞こえたが、まさか、今の呟きだけで通報されるというのか。

焦る私の前で、彼女は口早に言う。

【???】
「あの。もしもし。けーさつですかっ!? 大変です。殺人事件です!」

【雅文】
「おい、誤解だ。殺人はまだ、」

まだやってない。などと口走りそうになり、私は手で口をおさえた。

それから、指の隙間からもごもごと「違う」と言ってみる。

すると、窓際の女性は私を見て目を見開き、再び電話口に向かって声を出した。

【???】
「あっ、違いました! 発見したのは事件ではなくて、殺人計画をたてている男性です!」

【雅文】
「いや、だから、計画なんかじゃない。ただの思いつきだ」

【???】
「計画殺人ではなく、衝動的殺人をする予定らしいです!」

【雅文】
「それも違う。本気じゃない。冗談なんだ」

そもそも予定のある衝動的殺人なんておかしいじゃないか。そう言いたいのを我慢して、再び訂正する。

本当にやめてほしい。万が一にでも警察沙汰にされたら、それこそ結婚に支障が出てしまう可能性がある。

そんな焦りから必死になって誤解を解こうとしていると、女性は不意に言葉をとめた。

それからゆっくりと口角を吊り上げる。

【???】
「……キミ、焦りすぎっしょ」

瞬間、女性の雰囲気ががらりと変わった。

甲高く細い声から、落ち着いた低めの声に。そして、焦りの表情は嘲りへと。

【???】
「今のはただのフリ。それこそ、冗談だよ。じょーだん」

けらけらと笑って、彼女は携帯電話を揺らす。

よく見ると、その画面には草原の写真が表示されているだけだった。

【???】
「具体的な証拠もないってのに、あんな1回だけの呟きでけーさつ呼んだら迷惑じゃん」

【雅文】
「……私を、からかったのか」

【???】
「そだよ」

軽くうなずいたその女性はそのまま、「聞かれて困るような事をつぶやく方が悪い」と勝手に締めくくる。

【雅文】
「誰だか知らないが、そういう遊びは不快だ」

【???】
「遊び、ね。からかったのは事実だけど、本気でけーさつ呼ぼうと思えばできるよ?」

【雅文】
「私に、何か非があるとでも?」

【???】
「じゃー聞くけどさ。キミは、なんでここにいるの?」

【雅文】
「それは、ここが静かな場所だからだ」

言いながら、改めて周囲を見回す。

頭上に広がる快晴。青々とした草に、どっしりと構える木々。その中にぽつんとたたずむ廃屋。

小高い場所に位置しているために澄んだ空気が流れるここは、やはり私が1人で過ごすにはふさわしい場所だった。

今現在、廃屋から顔を出すこの女性の存在さえ除けば、だが。

【雅文】
「ここは私のお気に入りの場所だ」

【???】
「そ。気に入ってくれたんだ。ありがと」

【???】
「でもここ、私有地。私の家の土地」

【雅文】
「……私有地、だと?」

こんなに荒れ果てた場所が? とは、私が口に出さずとも伝わったのだろう。女性は不満げに眉をひそめる。

それから、遠くの方を指差した。

【???】
「あそこ。何が見える?」

【雅文】
「割れた板があるな」

【???】
「はい、ふせーかい。あれは柵。この土地を囲ってるわけ」

【雅文】
「どう見ても、囲えてなどいないが……」

【???】
「繋げてみてって」

私は言われた通りに、点々と落ちている板――女性の言うところの柵を、目には見えない線で繋げてみる。

すると、たしかにそれはこの建物を中心にして四角形に配置されていた。

意識すると、開放的な場所だと思っていたこの場所が一瞬にして閉鎖的な空間になってしまった。

私はうなる。

【雅文】
「という事は、この建物も廃屋ではなく、現在も使われているものなのか……?」

【???】
「そりゃね。現に、私がいるじゃん」

【???】
「ま、とにかくここは私の場所なわけ」

そうあっけらかんと言って、女性は私を指差した。

【???】
「だからキミは、勝手に入ってきた不法侵入者ってこと」

【???】
「けーさつ、呼べるってこと」

【???】
「で、どう? 呼ばれたい?」

【雅文】
「警察は困る。……ようは、私がこの場から去ればいいんだろう」

この場所を離れなければならないのは残念だが、仕方ない。

そう思って背を向けようとすると、女性が首を振る。

【???】
「それも、ふせーかい」

【???】
「ここにいたけりゃ許可してあげる。ただ、条件があるって話」

【雅文】
「条件……?」

【???】
「そ。すっごく簡単な条件だよ」

私を逃がさないようにとでも思ったのか、女性が窓から体を乗り出す。

そうして、今にもこちら側に落ちそうなほどに顔を突き出しながら、彼女は言った。

【沙羅】
「私は沙羅っていうんだけど、キミ、私と恋しない?」

【沙羅】
「ううん。恋、しよーよ」

【沙羅】
「結婚、しよーよ」

それはまるで、「一緒に遊ぼうよ」というかのような。

そんな、軽すぎる声だった。

;▲タイトル_単独結婚

【沙羅】
「私ね、深窓の令嬢ってやつ。箱入り娘なわけ」

ふぅん、と私は声を聞き流す。

自らを『沙羅』と名乗った彼女は、とうとつに自分語りを始めたらしい。

正直言って、まるで興味がもてない。

今すぐにこの場を立ち去りたいと思うのだが、女性の手の中にある私の携帯電話がそれを許してくれない。

それをいつの間に盗まれたのかは、気付かなかった。

彼女がそれを掲げて「話を聞かないと返さない」と宣言した時にようやく、私は自らのポケットを見て目を瞬かせたぐらいだ。

そんな手癖と性格の悪さで、よくもまぁ『深窓の令嬢』などと自称できるものだと思う。

【沙羅】
「お嬢様だから、婚約者とか用意されてるわけ。そう。お嬢様だから」

【沙羅】
「でもさぁ。婚約者って、あれっしょ? 結局、親が決めたものなわけじゃん」

【沙羅】
「それにただ従うのって、つまんないと思うんだよ」

こんな感じ。と言いながら、沙羅が自分の携帯電話を放り投げて、また掴む。

【沙羅】
「ほら。こうして落ちる場所がわかれば、こんな簡単に掴めちゃう。やっぱつまんないね」

不服そうな顔をした彼女は、また携帯電話を投げたが、今度は掴む事をしなかった。当然、それはそのまま落ちる。

しかし目立った落下音がしなかった事からすると、彼女がいる部屋の床は緩衝性があるのだろう。

【沙羅】
「相手の婚約者もさぁ。どうせ、相手が誰だっていーんだよ」

【沙羅】
「仮に私じゃなくっても、結婚したと思うんだよね。それが婚約ってものなんだし」

【沙羅】
「それもやっぱり、つまんない」

【雅文】
「……だから、私と結婚したいと?」

【沙羅】
「そ。私は、私の意思で恋をして、結婚したいってこと」

なるほど、と私はうなずく。

つまり彼女は、結婚しなければ殺されるというこの国において、生まれた瞬間から命が保証されている良いご身分のようだ。

この口ぶりからすると、その婚約者とやらも都合の良い相手なのだろう。

そんな事情は理解できた。けれど、彼女の思考はまるでわからない。

完全なるギブアンドテイク。国の制度で殺されないためだけの、結婚相手。

そんな存在が用意されているというのに喜びもせず嘆くとは、なんて贅沢な事だろう。

結婚しろと急かしてくるだけの私の両親と、彼女の親を取り替えてもらいたいぐらいだ。

【雅文】
「そもそも、なぜ私なんだ」

【沙羅】
「そりゃ、ボランティアも兼ねてだよ」

【雅文】
「……どういう意味だ」

【沙羅】
「だってキミ、ひとりぼっちじゃん。私が結婚してあげなきゃ、結婚できそーにないからさ」

ボランティア。と、彼女は繰り返す。

そこには嫌味ったらしさはまるでなく、本当に、心からの善意がこめられているようだった。

だからこそ、不愉快だが。

【雅文】
「なぜ、私が結婚できないと思う?」

【沙羅】
「やー。だって、キミの事は何回かここで見てたんだけどさ」

【沙羅】
「その度に『あぁ、1人だ……』とか『素晴らしい。私は自由だ!』とか言ってたじゃん」

【沙羅】
「で、思ったわけ。『あ、この人ヤバイ人だ。きっと恋人いないな』って」

【雅文】
「……他人の独り言を聴き続けているお前の方こそ、問題のある人間だろう」

【雅文】
「良い家に生まれていなければ、今頃、恋人なんていなかっただろうな」

【沙羅】
「そだね。きっといなかった。キミと違ってモテモテだから、早々に結婚してただろうね」

【雅文】
「……お前は喧嘩を売っているのか?」

【沙羅】
「そ。売ってる。ついでに私も大安売り。買ってくれる?」

【雅文】
「両方買わん」

喧嘩もこの女性も、どちらを買っても得があるとは思えない。

【沙羅】
「じゃ、私がキミを買ってあげる。いくら出せばイイ?」

【雅文】
「ふざけるな」

いいかげん、携帯電話を取り返して立ち去りたいところだ。

そう思って目を向けるが、依然として、携帯電話は私の手の届かないところにある。

どうにかできないだろうかと見つめていると、不意に沙羅がその携帯電話を近づけてきた。

そうして、俺の目の前にそれをぶら下げながら言う。

【沙羅】
「お金で足りないなら、権力でもいーよ?」

【雅文】
「権力……だと?」

【沙羅】
「そ。私と結婚すれば、勝手についてくるものだしね」

さすがにこの国の制度そのものは変えられないけどさ。と、前置きをしたうえで彼女は続けた。

【沙羅】
「政府にも少しは意見できるようになるだろうし、警察関係にも顔がきくから、多少の事件ならもみ消せると思うよ」

【雅文】
「もみ消す……」

その言葉を聞いた瞬間、私の中にひとつの考えが浮かび上がった。

結婚後、彼女を殺してしまえばいいのではないか、と。

といっても、実際にこの手で殺すつもりはない。

いくらなんでも、それをもみ消す程の権力など与えられないだろう。

だが、彼女をうまく言いくるめて自主的に失踪させるとしたらどうだろうか。

自ら出て行くなどの、普通の失踪なら約7年。

危険失踪という、事故などに巻き込まれたと思われる状態での失踪ならば、約1年で書類上の死亡となる。

事件性のない失踪だったとしても、その危険疾走だったという事に改竄してしまえばいい。

1度死亡扱いとなって婚姻が解消されてしまえば、もしその後に彼女の生存が確認されても、再び婚姻させられる事はない。

つまり結婚後1年で、私は本当の自由を――夢の独身生活を手に入れる事ができるはずだ。

想像して、私はつばを飲み込む。

それから、笑顔をつくった。

【雅文】
「……沙羅、さん。正直言って、金や権力をひけらかすその言い方はやめるべきだ」

【沙羅】
「ん? そかな?」

【雅文】
「ああ。それでは、自らを貶めているようなものだからな」

【雅文】
「変な輩が寄ってくる原因になるだろう」

私のような。とは、言葉に出さずに笑みを深める。

そうして、優しい声を意識してゆっくりと言葉を続けた。

【雅文】
「私としては、そんなふうにモノで釣ろうとする女性は好かない」

【雅文】
「だから、だな」

【雅文】
「もし本当に私と付き合いたい、結婚したいと思うのなら……こんな強引な方法はやめてくれないか」

【雅文】
「もっと少しずつ、お互いを知っていこうじゃないか」

【沙羅】
「お互いを知るって? どーやって?」

【沙羅】
「札束で頬でもひっぱたき合う?」

【雅文】
「違う。ただ、静かに話をするだけでいいんだ」

【沙羅】
「……それだけでいーんだ?」

【雅文】
「ああ。それが、恋というものだ」

【沙羅】
「ふーん。それが恋、ね」

本当は、恋なんて知るものか。

他人といるなんて苦痛だ。会話は面倒だ。煩わしくて仕方がない。

だが、それを顔に出してはいけない。

ほんの少し我慢して、優しい恋人のフリをして、このまま完全に彼女を私に惚れさせてしまおう。

そうすれば、すべてうまくいくはずだ。

【沙羅】
「じゃ、そーいう段階踏んで結婚するならおっけー?」

【雅文】
「ああ。沙羅さん。実は、私は君に一目惚れしてしまったらしいんだ」

【沙羅】
「一目惚れ……」

しまった。少し白々しかっただろうか。そう思って私は慌てるが、沙羅は満足げに言った。

【沙羅】
「そ。ま、私みたいな美少女を前にしたらしょうがないか」

うんうんと1人で頷いている様子からして、素直に信じたらしい。

こういうところは自称箱入り娘なだけはあるのか、または単純にナルシストなのだろう。

いずれにせよ、都合がいい事に変わりはない。

【沙羅】
「じゃ、改めてよろしく」

【雅文】
「ああ。よろしく頼む」

そう。ほんの少しだけ我慢しよう。

すべては――幸せな独身生活を謳歌するためだ。

 

当時の設定

■雅文:一生誰かと一緒なんて冗談じゃない。仮に寂しかったらペットを飼えばいいだけだ。大抵癒されるし、和む。

沙羅のもつ財産には興味がある。さすがに殺すのは現実的じゃないが、いっそ、結婚後にうまく言いくるめて失踪させたらどうだろうか。それなら、この家の財力があればどうとでも偽装ができそうだ。

一度それで離婚してしまえば、あとは本人が戻ってきても遅い。

■沙羅:婚約者が用意されているのは知っていたが、余命少ない自分のために誰かを孤独にしていいのかと悩んでいた。

そこで雅文のつぶやきを聞き、自分なら役に立てそうだと思う。
また、一方的でいいから恋もしたかった。自分のことを好きにならない相手となら、恋ができると思った。

最初から余命について言わなかったのは、完全に利用されるだけだとわかっていたから。

独身生活を望む主人公と病弱なヒロイン、という基本は変わっていませんが、沙羅の性格が大分元気でサッパリしつつもやさぐれた感じでした。
たしか、途中で沙羅が病弱だと知り、同情して愛を知っていく雅文……という流れを想定していたと思います。
これだと基本的には利害関係が一致していたわけですが、一致しすぎて起伏がなかった事により変更されました。

また、この時点の沙羅は一人っ子で洋一さんはいませんでしたし、愛情試験の構想もありませんでした。

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日曜定期更新(03/31/2019)「結婚主義国家 単独結婚 初稿」※ネタバレ注意” に対して2件のコメントがあります。

  1. あんや より:

    こっちの沙羅も好き

    1. water phoenix より:

      あんやさん

      こちらも好きと言って頂けて、嬉しいです。
      実際に採用される事はありませんでしたが、弊社としてもこの沙羅も気に入っていたりします。
      コメントありがとうございます!

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