シナリオ前の準備編1「ボツの出し方」 第34回ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた

◆ウォーターフェニックス的「ノベルゲーム」のつくりかた◆

他の会社さんや、個人のクリエイターがどうやってノベルゲームを作っているのかはわかりません。
ここに書かれているのは、あくまで私達「ウォーターフェニックス」的ノベルゲームのつくりかたです。


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第34回「ボツの出し方」
執筆者:イラスト、シナリオ担当 R


こんにちは。
イラストとシナリオ担当のRです。
今回からはケイ茶に変わり、私が記事を書いていきます。
まずは、【シナリオを書き始める前の準備編】です。

前回までの記事で、企画担当のケイ茶がひーひー言いながらアイディアを出す、という事がわかっていただけたと思います。
そんな汗と涙の結晶であるアイディアを、時に容赦なく切り捨てるのが私、イラストとシナリオ担当のRの役目です。
今回は、そうして「ボツ」と言う方の立場として、思う事を書いていきます。

◆まず、アイディアを共有しよう
◆「ボツ」と言わなければならない理由
◆ボツの種類
◆なぜボツになったのか?
◆それでもボツアイディアが続く時

 

◆まず、アイディアを共有しよう

ボツと言う前にまずしなければならないのが、企画担当の出すアイディアを理解する事です。
何を当たり前の事をと思うかもしれませんが、時に、これだけで数時間かかる時もあります。

物語をつくるうえで必要なアイディアは、大きくわけて「物語の流れ」「キャラクター設定」「世界観」の3つです。
企画担当から送られるものは、(場合によっては、キャラクター設定だけだったり、世界観だけだったりもしますが)基本的に、この3つが絡み合っている状態です。
そう。複雑に、絡み合っているのです。

物語を作った事のある方だと経験済の方も多いと思うのですが、こういうものって、思いついた人の中だけで完結している事が多いんですよね。
本人は文章にしてすべて伝えているつもりなのに、肝心なところが抜けていたりします。

桃太郎を例にしてみると、
何もその話を知らない状態で、いきなり「桃太郎が鬼を倒すんだよ! 凄いよね! 格好いいよね! 惚れるよね!」と熱く語られるわけです。
しかし、それだけではわけがわかりませんよね。
何が面白いの?何が格好いいの?桃太郎って誰?と疑問に思うばかりです。
そんな時は、どうするのか?

焦らず、ひとつずつ質問していきましょう。

桃太郎ってどんな主人公?→桃から生まれたんだ
どうやって鬼を倒すの?→仲間と協力して戦うよ
それはどんな仲間なの?→さる、犬、キジだよ
その動物たちはどうして仲間になったの?→きびだんごを渡したんだ

いかがでしょうか。
こうして手に入れた情報を元に想像してみると、鬼と戦う桃太郎の仲間たちの姿が浮かんでくると思います。
このようにして、企画担当が思い浮かべたアイディアがハッキリと見えてくるわけです。

 

 

◆「ボツ」と言わなければならない理由

さて。そうして理解できたところで、実際にそのアイディアを採用する(シナリオを書き始める方向にもっていく)かどうかを決めるわけですが……。

ここはなるべく、情け容赦なくいきます。
企画担当がうんうん唸って出したアイディアでも、夢の中でふと思い浮かんだアイディアでも、区別はしません。
その話の流れやキャラクター、舞台設定が面白そうだと感じるのか、感じないのか。
受けた印象を正直に答えます。そして多くはボツにします。
もし、ここで軽い気持ちのまま「良いんじゃないかな」などと言うと、後で絶対に後悔します。

「キャラクター設定」「世界観」「物語の流れ」
とは、どれも、物語において欠かすことのできない柱です。
途中でとあるキャラクターのセリフを一つ消すのは数秒で済みますが、キャラクター設定そのものを消すとなると、そのキャラクターが登場しているシーンすべてで修正が必要となります。
物語の流れを変えるとすると、シーンそのものが消えてしまいます。
世界観を変えてしまうと、そこまで書いたすべての文章を消さなければなりません。
そんな風にして巻戻してばかりだと、物語はいつまでも完結しません。

ですから、この時から念入りに、そのアイディア達が揺らぐ事のないものなのか判断しなければなりません。

とはいえ。
アイディアをボツにするといっても、一言「これダメ」と言って終わりにしてしまうのは、もったいない事だと思います。

 

 

◆ボツになった理由とは?

見せてもらったアイディアに関しては、「悪いと感じた部分」「良いと感じた部分」「付け足したら良いと思うところ」などを、なるべく具体的に言う事にしています。

というのも、漠然と出される「ボツ」は企画担当者を混乱させるだけだからです。

自信満々に、「これは最高に面白い物語だ!」と出されたアイディアを「つまらない」と評するわけですから、その一言の効果は絶大です。
「ボツ」というのは、企画担当を砂漠のど真ん中に放り出してしまうような言葉だと考えていいでしょう。

どこをどう直せばいいのかわからない。なぜボツになったのかわからない。もう何も考えたくない。
そんな風に、企画担当を宛もなくさまよわせたりする事がないように。
できるだけ細かくボツの説明をしますし、時に、私も加わってアイディアを出していくようにしています。

 

 

◆ボツの種類

そもそも一口にボツといっても、その種類は様々です。
前述した通り、物語というものは様々な要素が絡み合ってできているものです。
なので、そのうちの9割が面白くないアイディアだと感じたとしても、残りの1割だけを剥ぎ取ってしまえば、それは面白いアイディアになり得ます。

そんなアイディアに関してはただ「ボツ」と言うのではなく、「この部分だけは良いね」と言って、「保留」状態にしてみましょう。

その「保留」アイディアを、どのように使うのかは企画担当次第です。
保留のまま破棄されてしまう事も多いでしょう。
しかし、いくつもの「保留」アイディアが集まって、面白いアイディアになる事もあります。
そんな時は、よくあのアイディアからこうなったなぁ、と一種の感動すら覚えます。そこがまた、物語作りの面白いところですね。

ボツにするというのは、問答無用で消してしまう事ではありません。
ボツとは、面白いアイディアの土台として、積み重ねていくものなのです。

 

 

◆それでもボツが続く時

……と、それらしくまとめてはみましたが。
そのようにしてボツから改善点などを探ってみても、良いアイディアが送られてこない時はあります。

見せてもらったアイディアが、どれもこれもありきたりなものばかり。
むしろ、最初に見せてもらったものの方が面白かったのかもしれない……などと思う始末。
早くシナリオを書きたいのに、書く事ができない。自分でも何も思い浮かばない。苛立ちます。

けれど、そこで企画担当を責めても仕方ありません。
というよりも、責めた場合、ほぼ間違いなく状況は悪化するでしょう。

この時、企画担当の方が追い詰められています。苛立ち、焦り。それらが冷静さを失わせて、より、良いアイディアが出なくなるという悪循環に陥っているのです。
そこに追い討ちをかけてしまえば、企画担当が自信を失うか、喧嘩腰になるか……どちらにしても、場の雰囲気は悪くなります。
アイディアなんて考えていられる心境ではなくなってしまうのです。

では、責めずに放っておけばいいのかといえば、一概にそうとは言えません。
こちらが言うまでもなく、企画担当が自分で自分を責めて、勝手に沈んでいく事もあるからです。
そんな時の私たちの会話が、こちらです。

「……面白い物語って、なんだろう?」
「さぁ? ……なんだろうね?」

最早、会話にさえ面白みもありません。アイディアを出す方も、それにボツを出す方も、何もわからなくなっています。脱力感におそわれて、何もしたくなくなってしまいます。
では、そんな時はどうすればいいのでしょうか?

それは、耐える事です。
適度に休憩をはさみ。他の作品に触れたり、散歩をしたり。気分転換をしながら、とにかく、良いアイディアが出るまで耐えます。
多分、それしかないのだと思います。

 

良いアイディアが出ない時の解決方法は、結局のところ、なんとかして良いアイディアを出すしかないのです。

次回は、そんな風にしてボツの山の上にできたアイディアから様々な想像をしてみたいと思います。

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